薬事法から名称変更された医薬品医療機器等法の新薬の試験データ保護期間とは

「薬事法」という名称で知られていた法律は、「医薬品医療機器等法」(略称)へと名称が改められています。この法律には新薬(先発医薬品)の試験データ保護期間があると言われていますが、本当でしょうか。試験データ保護期間とはどのようなもので、どんな影響を及ぼすのかについて調べました。

後発医薬品についても解説しています。

医薬品を通販で購入するときは薬事法に気をつけよう

薬事法と医薬品医療機器等法

薬事法は昭和18年に「薬律」「売薬法」「薬剤師法」が統合されて生まれました。その後、昭和35年に薬剤師法は再び分離されています。これまで「医療用具」として規制されてきたものは平成18年の薬事法改正から「医療機器」へと名称が変わり、医療機器の賃貸業と保守管理、修理業も規制の対象となりました。

これらのことを踏まえて平成26年に「薬事法の一部を改正する法律」に基づいて、法律の名称が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改められています。厚生労働省は「医薬品医療機器等法」の略称を使用していますが、ネットなどでは「薬機法」という略称を使用している例も見受けられます。

医薬品医療機器等法の新薬の再審査期間

医薬品医療機器等法の新薬の試験データ保護期間とは、医薬品の知的財産制度に関連する言葉です。日本では昭和51年に物質特許制度が導入され、医薬品にも特許が認められるようになりました。医薬特許権の存続期間は20年で、存続延長は5年が限度です。

しかし特許法では、試験や研究は特許権の効力が及ばない範囲だとしています。最高裁の判例では、医薬品の承認申請に必要な臨床試験のための特許発明の実施は試験や研究に当たるとなっています。新薬の試験データ保護期間に関しては、医薬品医療機器等法の再審査制度が実質的に特許法と同等の裁定実施権を持ち運用されています。

新薬の試験データ保護期間は、医薬品医療機器等法には明記されていません。同法は先発権の保護ではなく医薬品の品質と有効性、安全性を確保するという観点から再審査期間を設けています。新薬承認後に医薬品が実際に患者に使用されたデータを集め、承認された効果効能や安全性に問題がないかを再度確認するための期間です。

再審査期間は医薬品によって異なります。新薬と同等の医薬品の承認申請をする際には、再審査期間は新薬と同様の試験データを添付することが求められます。この再審査制度の規定が、結果的に新薬の試験データ保護期間となっています。

新薬と同様の試験データが提出できない限り、後発医薬品の承認申請はできません。新薬の試験データ保護期間とは特許法の先発権の保護という観点から見た言い方で、新薬を後発医薬品から保護する期間という意味です。

2004年に医薬品製造業者の団体で構成される日本製薬団体連合会(日薬連)は、政府に対し保護期間の延長を要望しました。政府の知的財産戦略本部は「知的財産推進計画 2006」の中で医薬品の安全性等の一層の強化を理由に保護期間の延長を検討し具体的な措置を講じるとし、これを受けた厚生労働省の薬事・食品衛生審議会もこの案を妥当として厚生労働大臣に答申しました。

厚生労働省が過去の実績を解析した結果、新薬承認後7年をピークに5年から8年の間に重要な添付文書の改訂指示があることがわかり、再審査期間の考え方を改めたためです。

これにより平成19年に新有効成分含有医薬品について、再審査期間が6年から8年に変更されます。ただし、これは医薬品医療機器等法(当時は薬事法)の改正によるものではなく通知による原則です。令和元年の医薬品医療機器等法の改正により特定用途医薬品指定制度が明文化されたことなどに伴って、「医療用医薬品の再審査期間について」の通知が令和2年に新たに発出され施行されていますが、新有効成分含有医薬品についての再審査期間は変わっていません。

後発医薬品とは

後発医薬品は新薬と同じ成分、同じ効き目を持つ薬でジェネリック医薬品とも呼ばれています。医療機関で医師が処方する医療用医薬品です。国の厳しい審査をクリアしたものだけが承認されており、安全性や有効性、品質も先発医薬品と変わりません。

後発医薬品は先発医薬品の再審査期間や、特許期間が終了したあとに発売されます。再審査期間が終了しており承認申請には先発医薬品と同様の試験データを必要としないため、研究開発費が抑えられ価格が安いのが特徴です。

厚生労働省は患者負担の軽減や医療保険財政の改善に資するとして、後発医薬品の使用を促進しています。令和3年6月の閣議決定では令和5年度末までに、すべての都道府県で使用割合を80%以上にするという目標が定められました。

後発医薬品を使うには

病院で医師の出した処方箋には「後発医薬品への変更可」欄があります。この欄にチェックがあれば、後発医薬品に変更が可能です。希望する場合は、保険薬局で薬剤師にその旨を相談します。薬剤師から先発医薬品と後発医薬品のそれぞれの薬の特徴や価格の説明を受けて、自分の意思で使用する薬を選びます。

ただし、使いたくても後発医薬品が存在しない場合もあります。

後発医薬品と新薬の試験データ保護期間

後発医薬品の承認申請を行うには、新薬の試験データ保護期間(再審査期間)が終了していなければなりません。

しかしほとんどの医薬品は特許を取得しており、存続期間は20年です。前出の医薬品そのものを保護する物質特許だけでなく、新薬候補化合物がどのような病気の治療に有効なのかを特定する用途特許や、承認された医薬品の製剤処方を保護する製剤特許もあります。

医薬品の製造過程のアイデアを保護する製法特許も、医療特許権の1つです。新薬のメーカーはこれらの特許を時期をずらして取得するなどして、先発権の保護に努めています。医薬品医療機器等法の再審査期間が新薬の試験データ保護期間となり、意図せずに新薬メーカーの先発権保護の意味合いを持つとしても、新薬は特許で守られているため後発医薬品の開発にはほとんど支障が出ないでしょう。

医薬品医療機器等法の再審査期間は後発医薬品の開発にほぼ影響しない

医薬品医療機器等法では新薬の安全性などの観点から、再審査期間を設けています。安全性などを確認する期間のため新薬の試験データを後発医薬品に使うことはできず、結果的にデータの保護期間となっています。しかしほとんどの医薬品は複数の医療特許権で保護されているため、特許の存続期間より短い再審査期間が後発医薬品の開発を遅らせることはほぼないでしょう。